まずは前置きとしてシューケア、靴のお手入れの話。

革靴のクリーナーには実にいろいろな種類があり、普段はM.Mowbrayの「ステインリムーバー」を使用しているのですが、先日はじめてSaphirのReno'Mat
を試してみました。有機溶剤の臭気が思いのほか強く、素手で長時間使うものではありませんね。ただ、汚れは確かに落ちているし、使用後の革もカラカラになったりはせず、そうした点では良いところがありそうです。
そして、小傷の修理には、同じSaphirの補修クリーム。Crème rénovatrice 。これはカラー展開がなかなか豊富で、特に茶系の靴に対して合わせるのは簡単ではありません。以前からときどき使うことのあったマホガニーは特徴ある赤味。ブラウンはイメージよりもやや明るすぎ、今回新たに手に取ったダークブラウンは、手持ちの靴に対しては少々暗すぎる印象。とはいえ、これは文句でも愚痴でもなく、茶色というのは得てしてそういうもの。絵の具のように混ぜて使うこともできますし、次は「タバコブラウン」を試してみようかと思っています。
さて、どちらかというと今回はこちらが本題なのですが、上記の色名にも使われている「マホガニー」という植物。ちゃんと日本語の名前もあり、漢字では「桃花心木」と書くようです。中国の漢名由来であることは間違いなさそうですが、読み方については信頼できる情報がすぐには見当たりません。単に「心木」といえば「シンギ」ですね。でも、これは植物の名前ではなく「心棒」のこと。カイノキの別名「爛心木」を「ランシンボク」と読むところからして、おそらく「トウカシンボク」なのでしょう。
日本語のマホガニー/桃花心木も、中国語の桃花心木も、英語のMahoganyも、基本的にはSwietenia属の樹木3種、すなわちSwietenia mahagoni、Swietenia macrophylla、Swietenia humilisを指します。このうち種小名に「マホガニー」らしき響きが含まれているのはフロリダ半島~カリブ地方原産のSwietenia mahagoniだけですが、それもそのはず、元々は木材としてのマホガニーは本種から切り出されたものしか存在しなかったようなのです。この「オリジナルのマホガニー」は今でも高級品種とされています。
その後、Swietenia mahagoniの供給不足などの諸事情に合わせ、同様に「マホガニー」として扱われ出したのが、同属のSwietenia macrophyllaとSwietenia humilisという流れだそうで。更に今では、カヤの仲間など、より広範囲の木材にまで「マホガニー」という商品名が使われているといいます。
だったら属名の「Swietenia」っていうのは何なの?というところですが、これはゲラルド・ファン・スウィーテン(Gerard van Swieten)という18世紀のオランダ/オーストリアの医師の名前から取られたとのこと。スウィーテン氏はマリア・テレジアの侍医として知られています。ニコラウス・フォン・ジャカン(Nikolaus Joseph von Jacquin)という植物学者が、スウィーテン氏の医師としての功績を讃えてこんな属名を採用したという経緯。
夜中に黙々と靴を磨いていると、無心のつもりでいるのに、ついついくだらないことが気になったりするものです。
